【事件の話題】クズの魔法使い
昭和にあった話
かなりうろ覚えの部分もあるから足して書く
忘れたくないから書き残しとく
書くの遅いからそこは許して下さい
興味あったら読んでみて
自分史ではかなり衝撃的な出来事だった
昭和後半の頃だったはず
俺の通っていた小学校は河川敷のそばにあって
コンクリートの橋も掛かっていた
監視カメラとかもあんまない時代だったから、冷蔵庫とかテレビとかデカイ家電が橋の下によく捨てられていた
だから、大人達からは橋の下にはいくなよって言われてたけど、俺たち小学生からしたら魅力的な遊び場になっていた
けどある時から汚い爺さんが住み着いてしまった
浮浪者だ
爺さんは髪は白くてチリチリしていて日焼けも酷く皺だらけだった
俺たち男子は最初は避けて遠巻きに見てるだけだったけど
そのうち、お調子者のアベが
「あれさ、ホームレスって奴だろ…ちょっと近くで見ようぜ」
と仲間を唆し始めた
俺は臆病だったから、近づきたくなかったけど、みんなが行く手前嫌とは言えなかった
近くに行くと、爺さんは俺らに気づいたのかチラッと見てきた
俺らは4人居たから、ちょっと強気になっていたタカハシが
「こんにちは~」とか
声を掛けた
爺さんは汚いズボンに手を突っ込んだまま、じりっと近づいてきた
俺はその時点で逃げたかった
怖かったのもあるけど、爺さんがめちゃ臭かったから
うちの犬が嗅いだら卒倒して気絶するんじゃ、と思うぐらい臭かった
強烈なアンモニアとアルコールがまざったような…
風向きによっては、目が痛くなるくらい酷い匂いだった
声を掛けたタカハシ自体も多少匂いで怯んでいたと思う
近づいてきた爺さんは俺たちを見下ろしてジロジロ眺め回したあとに
「なんだ、おめえら」
と意外とハッキリ喋った
タカハシは俺たちがいることを確認するみたいに見ると
「じ…お爺さんは、ホームレスですか」
と聞いた
俺はこいつ馬鹿か?とタカハシの後ろ頭を見つめていた
そんなこと言ってこいつが怒ったら…
けど爺さんはニタアと歯抜けの顔で笑って
「なんだあ?餓鬼ども 俺が珍しいんか」
と言った
ガサガサした声だけど声に怒りは感じられなかった
そのことに肩の力が抜けた
爺さんは河原にある平たい石に腰かけると
「俺ぁな、忙しいんだ…お喋りしてえなら寄越しな」
そう言ってシワシワの黒い手のひらをこっちに差し出してきた
俺たちは最初、意味がわからずその手を見つめていた
爺さんは面倒臭そうに
「小遣いくらい貰ってんだろ?え?」
と、煽るように言った
金?
俺は呆気に取られた
大人に金を無心されたことなど初めてだったから
もちろん他のメンツも呆然としていた
アベがごそごそズボンのポケットを探りだした
俺はその意図が解って、「おい」と小声で腕に触れたけど
アベは構わず40円くらいを取り出すと
おずおず爺さんに手渡した
爺さんは額を見もしないでさっとポケットに入れると、アベ以外の三人に圧をかけるように見てきた
タカハシが、ムトウが…そして仕方なし俺も各自幾らか爺さんに渡した
幾らかは解らないがみんな大してもってる筈はないから、合わせても150円くらいなもんだろう
それでも爺さんはニッカリ笑って隙間がある歯を見せた
「よしよし…なかなか素直な餓鬼どもだなあ、聞きたいことでもあんのか」
と体格が一番大きいタカハシに聞いてきた
「え~とぉ…質問ある奴いる?」
いきなり話を振られたタカハシが動揺も露に三人に聞く
アベは学校のなかみたいにピッと手を挙げた
「あのぉ~…なんでオジサンはここに居るんですか?」
爺さんはザックリとした質問に
「俺ぁな 家が失くなっちまったの!」
と、答えた
いま思うとそりゃそうだろって答えだ
アベは答えに「なんで失くなっちゃったんですか?」とズバッと聞いた
爺さんはニヤニヤしながら
「大人にゃあよ~餓鬼にゃわからんこともあんのよ…」
と泣き真似をしてみせた
小さな子みたいに、エーンエーンのジェスチャーで
これをきっかけに、俺たちの緊張がふっと溶けた
「えっとさあ、オジサンはここで暮らしてるの?」
ムトウが不思議そうに訪ねる
こいつは自分ちが金持ちだから、こんなとこに住んでることが不思議でならないんだろう
「そうよ、ここはいいとこよ」
爺さんはうなずいて、さらにもう一度うなずいて
「いいとこだ、本当になあ」
と言った
俺は「寒くないの?」と尋ねた
9月だから、そこまでじゃないにしろこの頃は普通に「秋」があったし
夜は涼しいときもあったから
爺さんは「いんや」といい
ジュースを飲むような仕草をしてみせた
あったかい飲み物でも飲むのかと思っていたが
あれは酒を飲む仕草だったんだろう
次から次へと質問がでる
前はどこに居たの?
…東京でマンション暮らし
家族は居ないの?
…みんな死んだ
仕事はしないの?
…してるさぁ
そんな答えが返ってくる
嘘か本当かわからない
ただ、家族は?の質問のときだけは素っ気なくて言いたくなかったんじゃないかと思えた
爺さんが言うには仕事はあったりなかったりで
別にやりたくもないし、どうでもいいらしい
矢継ぎ早に出る質問を
「よっしゃ…おい、お前らに面白いことしてやるわ」
と遮った
爺さんは、ペッと自分の手のひらに唾を吐くとそれを両手でこ擦り合わせた
4人でいつのまにか爺さんのそばに座っていた俺らの頭上にその両手を掲げる
俺は頭を撫でられるんじゃないかと恐れたが、爺さんの両の手のひらは虚空でピタッと留まり、次に空気をかき混ぜ出した
何をする気なのか…魅入られたようにその手を見ていた
と、その手はムトウの頭の上で止まった
それから、爺さんは深呼吸をして目を閉じた
「お前は…お前の名字は…む…ムトウだろう…」
低い声ではっきりと告げた
「えっ」
当てられたムトウに限らず4人ともあんまり驚いて叫んでしまった
「ええっ?なんで?なんでわかっちゃったの?すげえ!」
アベが興奮して爺さんに臭いのも構わず間近により
タカハシもスッゲエを連呼していた
俺も当然驚いていたが、当てられたムトウだけは少し気味悪そうに引いていた
確かにもしも自分だったら気持ち悪く感じていたかも、と今は思う
爺さんはゆっくりと目をあけ
「どうだ!凄いだろう…魔法だ、魔法」
とゲラゲラ笑った
得意気に魔法を吹聴してたかと思うと、爺さんは急にげんなりしたように
「さて、俺ぁちょっと寝る…お前らはもう母ちゃんとこ帰れ、二度とくんじゃねえぞ」
くるっと体を翻すと来たときと同じかそれよりもゆっくり寝床に戻ってしまった
唐突に質疑応答が終わってしまって唖然として布団にくるまった爺さんを俺らは眺めるしかなかった
「…まあ…実際、宿題もやんなきゃいけないし…帰るか…」
毒気を抜かれた口調のタカハシに一斉にうん、と答えて河原に放り出されたランドセルを背負った
と、ムトウが心底呆れたように、だがほっとしたように叫んだ
「なあんだ!!!ばっかみたい!」
ムトウの言い方に俺たちは「なに?なにが?」と問う
ムトウは爺さんを気にするように指で「シッ」とすると
小声で自分のランドセルを前抱きにして
「ほら、これ」
とクスクス笑った
そのランドセルの隙間にリコーダーが飛び出している
茶色のケースに入ったそれには、はっきりと白い名札ケースに「ムトウ」と書かれていた
タカハシもアベも口に手を当てて笑いだし、俺も声を出さないように笑った
「ジジイ、これ盗み見ただけかよ!」
アベはヒィッと息を吸いながら苦しげに笑い、タカハシもムトウもその我慢した笑いにさらに笑いを募らせた
俺は声を出さないようにするのが辛すぎて涙まで出る始末だ
「スッゲエエェ~だってさあ」
帰り道、自分らの驚きようや言葉をお互いにぶつけあってゲタゲタ大笑いする
爺さんから離れたあとは手放しに茶化しあう
「魔法だぞ、凄いだろう」
爺さんの真似をしてムトウが両手を広げ目を瞑ってみせると、俺も俺もとみんなで真似をしあった
「あの爺さんさあ、考えてみたらやばいよな」
タカハシが言い、アベが頷く
「小学生の俺たちから金取るんだぜ~アタマおかしいよ」
ムトウは何度も首を縦に動かす
「俺なんか300円も渡しちゃったよ」
えー?と三人が一斉に驚き勿体ねえ、とムトウを責めた
「だってさ~急だったからさ…チェ、今日は駄菓子屋寄れねえや」
だな、とみんな残念そうに歩いていた
また1人、また1人を道を違えて俺はいつも1人で歩く下り坂を石を蹴りながら進んだ
でも、と内心思う
いつもの同じ毎日よりちょっと刺激的だったな、と
ドッジボールやドロケイもいいけど、今日は何より話の種になる
ホームレスと口を利いたのなんてたぶんクラスじゃ俺たちだけだ
親には言えないけど、明日クラスメイトには自慢しよう
俺はわくわくしながら、家路に着いていた
次の日
みんな想うことは同じで、俺たち四人組は各自ホームレスの話ばかりしていた
クラスメイトは感心して話を聞きたがり、俺たちは得意気に話をばら蒔く
やはり小学生に金を要求してきたくだりはみんな興奮して
まじかよ~とか
クズじゃん
とか言いたい放題だった
そして放課後までには「クズ」と「魔法使い」が定着して
いつのまにか爺さんは
小学生から金をたかり、嘘までつく
「クズの魔法使い」というあだ名に決定してまった
それから「クズの魔法使い」である爺さんはある意味人気者になってしまった
俺たちの話を聞いた奴らがちょっかいをかけに行ったり話をしたり
爺さんも爺さんで特に追い払うでもなく小学生と喋ったりしている
一度見せてくれた魔法はネタがバレたことを知ったのか、あれきり見せる気配はなかったようだった
小遣いせびりに関しては、せびられた奴もやっぱり居たみたいで
何故か得意気に「100円やったぜ」とか俺は幾らだ、とか話しているクラスメイトもいた
みな、口々に楽しそうにはしていたものの親や先生には言わないように意識していたみたいだった
俺は4人で連れだって爺さんを尋ねたりはしたものの、まだ1人で話に行ったことはなかった
ちょっと怖くもあったし、話すこともなかったから
ただ、家族の居ないだろう爺さんが小学生に囲まれて、あまり寂しく無さそうなのがホッとしていた
なんだか、良いことをしたような気になっていた
そんな日常が続いて、しばらく経つと爺さんがいることにも大した刺激は得られなくなり当たり前になっていった
そして…冬休みが始まる1ヶ月前に、事件は起こった
起こった、というより前兆に近かったかもしれない
タカハシ家が飼っていた雑種の犬、「獅子丸」が居なくなったのだ
「綱が切れてて…」
明らかなタカハシの意気消沈ぶりに、俺らは一様に神妙な顔をしていた
「なんかお父さんが言うにはハサミで引き綱切られたみたいで」
その引き綱には覚えがある
使い込んだ色味になった、赤い引き綱だった
持たせて貰ったこともあるからわりと太くてずっしりしていた記憶がある
それから近所じゅうを探し回ったり、警察に連絡したりの一騒動があり、今に至るらしい
獅子丸名前は「忍者服部くん」に出てくる犬で、目のブチが似てるからつけたそうだ
誰にでも尻尾を振る人懐こい奴で、俺も可愛がったり遊んだりしていた
アベもムトウも同じだろう、辛い気持ちを4人で共感している
「俺たちで放課後探そうぜ」
俺が提案するとすぐさまアベとムトウも頷いた
タカハシは感謝の眼差しを俺に向け、赤い目を乱暴に擦った
約束通り、放課後門限が許す限り探したが獅子丸は見つからず
持っていたドックフードが虚しく地面に置かれ、それを野良猫がちゃっかり食べていた
そんな悲しい出来事の3日後
学校内に一大センセーションが巻き起こる
なんと、学校で大切に飼われていたウサギが全滅したのだ
これはニュースにもなり、教師達の緊急会議の為に午前解散になった
解散の前に体育館に集められた全校生徒は校長から
不審者に気をつけることと、見つけたら近づかず通報すること
暗がりを歩かないこと
これから一週間は外で遊ばないこと
寄り道をせず帰り、着いたら担任に電話すること
を約束させられた
話を聞きながら、俺は不安に襲われていた
獅子丸が居なくなった3日後に、ウサギが殺される…
まさか同じ奴がやったんじゃ…
反射的にタカハシを振り替えると、俺の視線に気づいたのか軽く頷いた
多分同じことを考えてる…
俺は背筋にゾクッと寒気が走った
「なんかさ~ウサギ全部喉を刃物で切られてたらしいよ?」
「うそ、怖い」
そんな女子達の声が響く廊下で俺はタカハシに話しかけた
「タカハシ…あのさ」
タカハシはそれを制するように「俺さ」と大きい声で話し出した
「クズの魔法使いんとこに行ってみる」
「え?なんで?」
余りにも意外な答えにすっとんきょうな声が出た
タカハシはキッと俺を見ると小声で答えた
「…犯人じゃないかと思うんだ」
俺は嘘だろ?と同じく小声で答えタカハシに詰めよった
「証拠あんのか?」
タカハシは首をふる
だが、決意を込めた声音で続けた
「あいつがフラッとやってきてからじゃんか 獅子丸か居なくなったのもウサギが殺されたのも」
「そ、それだけじゃ…」
なんとも言えない、と言う前にタカハシは怒りを込めて呟いた
「今までこんな酷いことなんてなかったじゃねーか
あいつ…怪しいんだよ、俺らから金をせびったり、嘘ついたり…」
…ダメだ
多分俺が何を言ってもタカハシは行く気でいる
「じゃ、じゃあさ、1人で行くなよ!」
俺の言葉にタカハシはハッとして
「お前、アベとかムトウに言うなよ!学校からも言われただろ、一緒に来たら違反になるからな!」
タカハシは早口で言いきるとサッと教室に入ってしまった
面白いな
更新待ってるよ
まじ?嬉しいな~ありがと!
ありがとうよ~励みになるぜ!
その日は集団下校で六年生が仕切っていて、俺たち4年生は大人しく着いていくしかなかったからなかなか4人で話せなかった
集まって話したかったのに、結局帰る方向でバラバラのグループになってしまう
俺は今日、タカハシが家から抜け出してクズの魔法使いの所に行ってしまうのを確信していた
集団下校に合わせてモタモタ歩くことに苛立ちながらもやっと自宅に着くと
さっそく玄関に飛び込んだ
「怖いことが起きたもんねえ」
という母親の声も無視して電話に駆け寄る
タカハシの電話番号にかけ、誰かが受話器を取るのを焦りながら待っていた
何分も経った…ような気がしたあと、タカハシの母親が電話に出た
「あっあの…タカハシ…えとケンゴ君はいますか」
母親はまだ帰ってないのよ、とさらっと言ったあと母親と同じようにウサギの話題を持ち出そうとしたが、俺は
「ありがとうございます!」と会話をぶったぎって受話器を置いた
帰ってない?
そんなはずないだろ、俺の家より近いんだぞ…
ハッとした
あいつまさか、家に入るフリをして他の生徒をやり過ごしたんじゃ…
ランドセルとか庭に置いて、その足で河原に走ったんじゃ…
そう考えるとそうとしか思えなくなった
俺は室内飼いをしているパピヨンのマメを一なですると、そろり…と母親のいるキッチンから離れ玄関に向かった
靴をもう一度履き、引戸を思いきって開ける
案の定、奥から「こらっ、今日は出掛けちゃダメでしょ!」と怒鳴られたが
その言葉も最後まで聞かないうちに玄関から飛び出した
走りながら、マメの小さい頭を撫でた感触を、暖かさを思いだし一気に涙が出てきた
俺だって
俺だってマメが浚われて…酷い目にあったらそいつを許せない
タカハシだって同じ気持ちなんだ!
俺はとにかく全速力で、もと来た道を戻っていた
たとえ先生に見つかっても構わなかった
だって…もし犯人が本当にクズの魔法使いだったら…
そんなやつと二人きりになったら
俺はその先の可能性が怖くて、考えるのを止めた
河原が見えてきた
ゼエゼエと鳴る息を落ち着かせようと少しだけ歩調を緩めようとしたとき
川の傍に対峙している二つの人影に気づいた
1人は大人
1人は小学生
クズの魔法使いとタカハシだ!
俺は疲れた足に鞭を打って、全速力で走り出した
二人の距離は1メートルほど離れていて、近づくと二人とも真剣な表情をしていた…タカハシは泣いているようだった
俺はようやく追い付くと、タカハシの肩に手をかけ
「大丈夫か?」
と息も絶え絶えに言う
俺に視線を合わせてきたときのタカハシの顔は今でも鮮明に覚えている
困惑とも絶望とも驚きとも言えないようでいて、その全てに当てはまるような不思議な顔をしていた
ゆっくりと俺の名前を呼び「来てくれたんだ…」と独り言みたいに呟いた
俺は悲しげな顔で立っているクズの魔法使いを見あげ、「何したんだよ!」と叫んだ
クズの魔法使いは黙ったまま、涙を溢しているタカハシを見つめ
「わかったか?」
とだけ言った
静かな、ふざけの一切ない声で
その言葉に、タカハシはコクン、と頷き
「…ありがとう、ごめんなさい」
といった
…二人は俺が来る前に会話を終えていた
ごめんなさい、ということはクズの魔法使いは犯人じゃなかったんだ…
俺は一気に安堵した
体温が上がったかと思うくらいに
だがわからないのな
ありがとう
だ
なぜタカハシがクズの魔法使いにお礼なんか言うんだ…?
俺が問いかけるようにクズの魔法使いを見ると、タカハシに向かって顎をしゃくって
「話を…ケンゴから聞いてやれ」
といって、寝床に向かってしまった
俺はのどかな河原でひと息ついて、丁度いい石に腰かけて隣の石を叩いた
「お前焦らすなよなあ…座れっての」
タカハシはロボットみたいにぎこちなく動きだし、ハアっという大きなため息と共に隣に座った
「つうか、クズの魔法使い名前教えたのか…謝ったってことは違ったんだろ?」
まだ些かぼんやりしているタカハシをつつくと、噛み締めるように頷いた
「違ったし…あの人はクズじゃなかった」
唐突な言葉に、驚きつつ興味をひかれた
「誰にも言うなよ?アベにもムトウにもだぞ 誓え」
誓う、という聞きなれない言葉に心臓か跳ねる
約束だぞ、とか
絶対な、とかよりずっと重たい質量のある言葉に圧倒された
だが、もちろん即座に誓った
俺は約束は破らない 誓うとなればなおさら破らない
俺の真剣な「誓うよ」に、安堵したようにタカハシはポツリポツリと語りだした
「俺さ…絶対クズの魔法使いが犯人だと思っててさ…
だから…だからあのクズ野郎をぶっ殺してやろうって思ったんだ」
驚きが顔に出たんだろう
タカハシは疲れた顔でポケットを探ると何かを取り出した
それは木目に年季を感じる、ポケットナイフだった
「このナイフはお父さんのヤツだよ
キャンプで良く使ってるの知ってたんだ …クズの魔法使いを問いただして、本当に犯人だったら…学校のウサギみたいに獅子丸を殺したんなら…
同じようにやってやるつもりだった」
さも当然のように話すタカハシ
俺は否定しない
俺だってマメが殺られたら、殺ってやる…
「河原についたら、魔法使いが川に石を投げてたんだ
なんもすることがないみたいに
あんまり呑気だからイラついてさ
ゆっくり近付いたんだ」
タカハシが「クズの魔法使い」から「魔法使い」に呼び方を意識的に変えたことに気づいたものの
それから?と先を促した
「そしたらさ…あと2メートルくらいになった時に
止まれ!ケンゴ!
って振り返りもせずに叫ばれたんだ」
タカハシはその時を思い返すように目を閉じた
「俺、びっくりして持ってたナイフ落としちゃって
地面から慌てて拾って向き直ったら魔法使いが目の前に来てた」
「お前が獅子丸を誘拐したんだろって言う前に
俺ぁお前んちの犬をさらったりなんざしてねえ
ガッコのウサギも殺ってねえ
って言われた」
「なんで知ってるんだ!それが証拠じゃないか!
って言ったんだ…
そしたら」
「俺ぁ魔法使いだからよぉ」
引き継ぐように放たれた言葉にパッと振り向くと
いつの間にかクズの魔法使いがたっていた
風下だったからまったく気づかなかった
「魔法使いって…」
俺が呟くと、タカハシは青ざめた顔で
「本当なんだよ」と呟いた
「この人は俺の名前も、俺が犯人だと思い込んでることも
獅子丸の名前も知ってた
知りようがないだろ?
名前やなんかは調べられても獅子丸の名前まで知るわけない
俺の家も知るわけないし、何より…」
持ってるナイフに目を落とし
「父ちゃんの大事なナイフで何しようとしてんだ!
ってさ」
タカハシのお父さんがキャンプが好きなんて俺だって初めて聞いた
まして、クズの魔法使いが知るわけがない
俺は興奮と恐怖が鳩尾に伝わって、まじまじと皺だらけのチリチリ白髪頭の、どこから見ても立派な浮浪者の爺さんを凝視した
爺さんはのっぺりした顔で淡々と言った
「昔からよぉ…勝手に入って来るのよ、人の思い出やら、感情やらがよぉ…」
額を指でトンと指して俺たちのようにしゃがみこんだ
「必ずってワケじゃねえのよ
おめえらの友達の名前は、読みやすかったからたまたまだぁな」
そんな自分にうんざりしてるように言う
「おめえらが俺を嘘だって思ってたのは好都合だったんよなぁ
久しぶりに餓鬼んちょとはいえ、人と話せて楽しかったもんだからよ
つい、浮かれちまった」
人の心がわかるなら、俺たちが自分を「クズの魔法使い」と呼んでた事ぐらいお見通しだろう
俺はバツが悪くて謝ろうとしたが、クズの…いや、ただの魔法使いは手で制した
「いやぁ…いいのよ
俺ぁクズだしよ、おめえらみたいな餓鬼から金めぐんで貰ってんだからさ
ただよぉ…
殺しはダメだ
俺ぁ、犬コロだろうがネズミだろうが殺しゃしねぇ
可哀想じゃねえか、なあ?」
さも嫌そうに顔をしかめて、ため息をつく魔法使いは
ただの酒好きな爺さんにしか見えなかった
黙って聞いていたタカハシは、ふと顔を上げて
「獅子丸はもう居ないんだよね?」
と微かな声で魔法使いに聞いた
その声に魔法使いは、困ったような、憐れなような顔をして
「多分な、詳しくはわからねえけどな」
とボソっと言った
その口調から俺は
本当はハッキリしてるけど、タカハシの為に言わないでいてくれてるんだろうと思った
俺は魔法使いに感謝した
長いな~
ゆっくりでいいから更新待ってるよ
病院いかなアカンから夜まで待ってくれ…
上のお二人さん、楽しんでくれてサンキューな!
獅子丸はもう帰ってこない
その事実を受け止めているタカハシに掛ける言葉がない
俺はずっと気になっていたことを、魔法を使えるホームレスに聞いてみた
「く…あ、いや、おじさんに聞きたいんだけど…なんでもわかるなら、ウサギ殺したヤツと獅子丸誘拐したヤツって同じヤツなの?」
魔法使いはジッと考え込むように黙った
そのうち、その質問は忘れ去られたのか?と思う頃
「ああ」
と断言した
それは、その一言はタカハシの目から希望を奪ったと思う
だが、敢えて魔法使いは断言した
今なら「待ち続ける」という苦しみからタカハシを救ったんだろう…そう思える
だが、その時の俺はしくじった、と内心焦った
だから慌てて
「じゃ、じゃあ、誰かわかるの?」
と聞いた
間髪を入れずに
「わかるわけねぇわ」
と魔法使いは言った
「さすがに傍にいねぇとわかんねぇよ
傍にいたってわかる時もありゃあわからんときもある、ただ…」
と間を置き
「ただ、よほどそいつが異質な何かを考えてればわかるかもしんねえな…」
その言葉に俺たちはガッカリした
獅子丸とウサギが同じヤツの仕業だとわかるなら、文字通り何でもわかるんじゃ…と期待したから
「ガッコのウサギの件はよぉ
サツも調べるだろうし、俺が出る幕もねぇだろうぜ」
俺たちのがっかり顔に言い訳するように魔法使いは話を続けた
「さあてね、そろそろおめえら帰んな
このままじゃ本当に俺が逮捕されちまわぁ」
魔法使いはスィッと立ち上がると、いつものゆったりした足取りで寝床に向かった
その後ろ姿に、タカハシは大きく
「本当にありがとう、魔法使い!」
と叫び、魔法使いのホームレスは振り返りもせずに片手をヒラつかせた
俺たちは無言で歩き始めた
タカハシとの分かれ道が近づくと、タカハシがひとこと
「本物っているんだな」
とつぶやいた
俺は「うん」とだけいって、じゃあな、ありがとうな!と走って帰っていくタカハシの後ろ姿を目で追っていた
それから、特に進展もなく冬休みを迎えた
進展はなかったが、ウサギ殺しは活発に動いていた
外飼いしていた犬が行方不明になったり、別の学校の鶏が殺されたり
ローカルニュースばかりではなく、全国区のニュースでも小さく取り上げられるくらいには続いていたのだ
もし、今みたいに防犯カメラが町に普及していればアッサリつかまったかもしれない
俺はタカハシと二人だともっぱら魔法使いの凄さを語り合い
四人集まれば「犯人」の推理をしたり、子供らしくドッジボールなんかをして過ごしていた
タカハシと俺はアベとムトウに、決して魔法使いが本物だと明かさなかった
そんなことをして噂が広まれば必ず魔法使いの迷惑になることがわかっていたから
なんだか、町中がピリピリしている
そう感じていた
今まで外飼いをしていた家庭もあらかた家に入れていたし、見慣れない人が町をうろつけばじろじろ眺め回したりするのが日常になってしまっていた
子供はそれでも元気に遊んでいたが、門限により厳しくなった親によって
四時にはもう公園は閑散としていた
書くのってこんな大変なの?
セリフとかほとんど覚えてねえから
こんなだったよな~…だし
小説家じゃねっつの!
ただまぁ長いけどあと少しかな…また明日頑張りますわ…
明日もまた来るよ
二人ともありがとう~なるべく頑張るからさ!
いや、すまんな
今日仕事が忙しくてさ
まぁぼちぼち書いてくよ
正月気分も抜けた冬休み終盤、俺はふと魔法使いの爺さんはかなり寒いんじゃないかと思い立った
あまりにも遅い思いつきだったが、久しぶりに会いたかったし、ついでに父親の古着でももって会いに行こう!と紙袋を手に母親の所へいく
「ね~なんかいらない服とか毛布ない?」
聞こうと口を開きかけたとき母親の方から
「ちょっと!あんた聞きなさいよ!」
と食いぎみで話しかけられた
さっきまで長電話をしていたので、何やら噂話でも仕入れたのだろう
このテンションでは聞かざるを得まい…
俺はしぶしぶ「何が?」と訊ねた
「なんかね!どっかのホームレスが逮捕されたらしいわよ!
最近、怖いことあったじゃない?
多分犯人よ…」
余りの衝撃に、その先の言葉が入ってこなかった
ホームレスって…まさか…
「なんかさ、最近汚いホームレスがうろついてるって看板も回ってたのよ~あんたにも注意したじゃない?
やっぱりねぇ…怪しかったわよ、お母さんも見たことあるもの」
湯呑み茶碗の暖かいお茶を啜りながら頷く母親
俺の茫然とした様子に気づきもせず続ける
「あの~あんた知らないかもしれないけどさ、三軒隣のニシジマさんとこの息子さんにいきなり掴みかかったんですってよ~?怖いわねぇ本当」
その言葉は、俺の胸を貫いた
激しい興奮と痛みに、顔に血が登った
魔法使い!
あんた…見つけたんだろう!
「それでね、その子…確か高校生だったかな~…がさ、警察呼んでね
そのホームレスったら逃げるでもなく、大騒ぎだったんだって!
いやぁ~良かったわよ~これで怖いこともなくなるってねぇ」
思い起こせば母親に、最近近所に不審者が出るから気をつけて、と言われていた
その不審者が、まさか魔法使いだとはまったく思わなかった
「もし、そいつが異質な何かを考えてれば…」
魔法使いは俺たちにそう言った
もしかして、近所を回ってそんな「異質なヤツ」を探していたのか?
自分が怪しまれるのを覚悟してまで探していたのでは?
俺は心臓が痛いくらい鼓動していて、涙が出そうだった
タカハシに
タカハシに教えなくちゃ…
俺は電話まで駆けていき、受話器を手にしていた
公園に来たタカハシは、蒼白な顔をしていた
もう、町中の人々が知っているんだろう…電話で会いたいと言うと直ぐ様公園を指定し走ってきた様子からしてそう思える
「魔法使いが逮捕されたって…」
どちらからでもなくそういうと、俺たちは顔を見合わせた
「魔法使いは、犯人を見つけたんだ」
確信をもって断言したタカハシに、俺も「そうだ、そんでその犯人は…」
三軒隣の高校生
言うまでもない
「ニシジマ」
タカハシは記憶に刻むように繰り返した
そこまでは知らなかったようだ
「ぜってえ許さねえ…獅子丸もウサギも逮捕された魔法使いのこともまとめて復讐してやる…」
4年生とは思えない凄味に、俺は慌てた
「ナイフはやめろよ?そんなん、魔法使いが悲しむ」
逮捕されたままの魔法使いを小学生の俺たちが助けようとしても無駄だろう
どうしたらいい?
答えは二人とも同じだった
犯人を、ニシジマを捕まえたらいいんだ!
>>111
なんでだよ笑
楽しみにしてくれてる人、地味にいるんだな~ありがてぇ
話はもう終盤です~
今日は疲れたから明日また書くよ
ちゃんと最後まで書くから見てね!
終盤楽しみにしてる
捕まえる
俺たちはどうしたらニシジマを捕まえられるか頭をフル回転させて考える
相手は平気で沢山の動物を殺すような化け物だ
こっちは二人とはいえ、高校生だし体力がかなうわけもない
三時を過ぎて、人の気配がなくなりつつある公園で
俺たちは立ち上がってニシジマの顔を見に行くことにした
「作戦どおり1人でな」
俺はタカハシから離れ、自宅の塀のなかにかくれる
タカハシは緊張したようにハアッと息を吐き、覚悟を決めて歩きだした
俺の家から三軒離れたニシジマ…表札を確認して、タカハシは玄関に通じる鉄製の華奢な作りの扉を開いた
ここからは俺はまったく見えない
ドッキンドッキンと、うるさいくらい響く自分の鼓動だけが聞こえる気がした
うまくやれよ、タカハシ…
俺の念じた声が聞こえてますように
魔法使いの力がタカハシにもあればいいのに、とひたすら祈っていた
長い時間が経ったような気がするけど、どうなんだろう
まだ2分も経っていないのじゃないか…
そのうち、タカハシの「突然すみません!」
という元気な声が聞こえてきた
何事かを話しているのだろう…しばらく間があり、
「ありがとうございます!」
と、タカハシの溌剌とした返事
合図だ
ありがとう!
俺は家から出るとゆっくりとタカハシのいる方に向かった
ニシジマ家の玄関が開いていて、タカハシの目の前には…痩せっぽっちの眼鏡の男が立っていた
こいつだ
俺は何だろう?という視線を投げ掛けて、ごく自然に…なるべく自然に見えるよう通りすぎた
公園に戻ってきたタカハシを呼び寄せる
「上手く行ったぞ」
緊張がほどけた顔で、ニヤッと笑った
「作戦通り、
俺のうちで飼われてた犬が居なくなって、近所の人がニシジマさんのお兄さんが連れてたのを見たって言われて
って言ったら
一瞬、ギョッとしてたぜ」
うん、と俺
「確定だよな、そもそも疑ってねーけど」
「ごめんね~知らないな
だってさ…
で、その近所の人って誰?どこで見たの?って聞いてきたわ」
もちろん嘘だから、タカハシはこの世に5万といる佐藤という名前を言い、見た場所はニシジマの家の傍、と言った
「でな、聞いてもいねーのに、ホームレスの件知ってる?
だってよ
知らないっつったら、
俺が逮捕させたんだよ~変なジジイだったわ
ヤベーヤツがいるから、君も気をつけてな
だってよ、糞野郎」
タカハシは悔しそうに顔を歪めた
「なんだよ、それ…ぜってえ捕まえようぜ」
俺も気持ちを新たにする
作戦1は成功した
俺たちはターゲットをしっかり見極めた
作戦2は、いよいよ、ヤツを罠に嵌めてやる
俺たちは今一度作戦を練った
長丁場になりそうな事は避けた
例えば張り込みとか、もう一度やったところを捕まえるとか
あいつは多分、魔法使いに罪を押し付けて安心してる
もしかしてもうやらないかもしれないし夜中に張り込みはどだい無理な話だ
やっぱり手っ取り早くやるしかない…
熱出たならしょうがない
最近急に寒くなったりするからお大事にね
俺たちの立てた作戦はかなり危険なものだったけど、やるしかなかった
「ムトウと…アベの力も借りようよ」
「そうだな、もう全部話そうぜ」
俺たちは四人であつまり、全てをぶちまけた
魔法使いが本物であること、ウサギ殺しがニシジマであることを
最初、はじめて聞かされた2人は憤慨していたように思う
それはそうだ、大人なら水臭いといった感情だろう
2人は俺たちだけのけ者にしやがって、とブチブチ文句を言っていたが
魔法使いの環境を考えてのことだと最終的には理解してくれた
ここから、主に頭脳担当のタカハシと意外にもアイデアマンのアベがお互いの意見を出しあい、よりしっかりした計画に磨かれていく
冬休みの間に決着させよう
俺たちは頷いた
最近話題のニュースを取り入れた作戦が完成し、いよいよ決行することになった
ムトウ、アベ、俺、タカハシ
VS
ニシジマ
決戦というわけだ
負けるわけには行かない
俺たちは作戦が終わるまで会わない
あまり一緒にいると万一支障をきたす恐れがあるからだ
俺は家に帰りひとり机に向かうと、定規を取り出した
手袋を嵌めた手を動かし、コピー用紙に定規を使用したカクついた字で
ウサギゴロシノニシジマシュウジ
オレハナンデモシッテルゾ
ショウコハシャシンニオサメタ
バラサレタクナカッタラ
6カノシンヤニジニ
ナカヨシコウエンニコイ
ハナシヲシヨウ
と書いて表にニシジマシュウジとだけ書いた封筒に入れた
高校生の名前は母親からそれとなく聞き出した
1月6日、深夜2時
ニシジマは来るだろうか?
来るだろう、と思った
だって誰も知らないはずの自分の秘密を知られてるんだから
しかも証拠がある、と…
完璧な身代わりを立てた今、ほっとしていたろう時にこれだ
絶対来る…
6日は明日だ
俺は明日の下準備のために母親のところへ行った
話をしたあと、人の目に注意しながら誰も見ていない時に封筒をニシジマのポストに入れた
封筒から手が離れた瞬間、真剣勝負が始まったんだ
刻々と約束の時間が迫る…
にわかに緊張してきて、手が震える
うまくいく、きっと成功する
タカハシはみんなと合流してる頃だ
よし、ナカヨシ公園にいこう
俺は作戦通り親父から借りたカメラを首にかけ、約束の時間より10分早く公園についた
公園中央より左にある滑り台の上に立ち、入り口をじっとみつめる
来る
血流が冷たくなる…
俺は極力回りをみないように深夜の滑り台の上から入り口を見下ろしていた
足音よりも、本人よりも早く、そいつの長く伸びた影を街灯が照らし
公園の入り口から侵入した
そいつは人目を憚るようにフードを被りさらにマフラーで顔の半分を覆っている
待ち合わせの人…俺を探しているのだろう
公園の中程まで歩き進め、ようやく滑り台に目をやり…立ち止まった
「なんだ、小学生かよ」
威圧するような低い声を放ち、俺を見上げた顔に恐れは微塵もない
落ち着き払ったその態度に俺は怒りを感じる
「そんなところで遊ぶつもりか?」
挑発的な笑いを浮かべ鼻を鳴らした
俺は心臓を吐き出しそうなくらいドキドキさせながら、滑り台を滑り降りた
奴はニヤニヤしながら、俺の目の前に立ちふさがった
「余裕そうじゃん、ウサギ殺しのお兄さん」
俺の言葉に、ニシジマの顔から笑顔が消えた
まるで布巾で汚れを拭ったように跡形もなくなった
「ガキ、お前がふざけた手紙を寄越したんだな…1人とはね、度胸だけはあるんだなクソガキ」
タカハシと話していた時のような明るさはなく、ひたすら毒気に溢れている
「じゃあ否定すんの?証拠がこの中にあるのに」
俺のつついたカメラをじっと睨む
「ここに来たってことがお前がやったって証拠にもなるんだぞ…」
ニシジマは能面のような無表情を浮かべたまま、俺に近づいた
「ここにあるフィルムを明日現像したらお前なんか終わりだぞ!
それが嫌なら俺にい、1万寄越せ!」
真っ赤になってどもるとニシジマは声を殺すように腹を抱えて笑いだした
「まじかよ!まさか…まさか小学生に強請られるとは…笑える、しかも1万とか…」
「なんだよ!俺に取っては大金なんだぞ!そんだけあったらゲームソフト買えるし…」
突如にぶい音がして、気がつけば俺は地面に転がされていた
「小学生ってやっぱり馬鹿だよなあ?」
言うが早いか、鋭い蹴りが腹に入った
「たかが1万とはいえ…俺がガキになめられるわけにはいかねぇわ」
立ち上る砂煙を吸い込んで咳き込む俺の髪を掴み、持ち上げる
もうひとつの手で首から下げていたカメラをグッと引き寄せられた
「こういう時に切り札を持ってくるなよ馬鹿が」
笑いながらカメラを首から引き抜き中からフィルムを抜き出そうとしたとき…
ヤカンが沸騰したような、とんでもなく甲高い声が公園じゅうに響き渡った
「だ、誰か助けてーーー殺されるー!」
俺は痛む腹を抱えながらも、滲む涙を拭いもせずにニシジマに笑いかけた
「馬鹿はお前だよ」
ムトウとアベはニシジマが固まったまま動けずにいる間にも叫びまくっていた
深夜に響く子供の声に何事か、とそこここで扉の開く音がし始める…と
やっとニシジマはまずいと気づいたのか走り出した
ムトウとアベの二人組は「まてー!人殺し!」と叫びながら追いかける
と、腹を押さえて砂だらけの俺のところに「あんた、大丈夫?」と声を掛けてくれるおばちゃんも現れた
俺は打ち合わせ通りに泣いて見せた
芝居をする必要はなかった
ぶっちゃけ蹴りがめちゃくちゃ痛かったし、あいつの魚みたいな目が怖かったからだ
「俺…今日ニュースで流星群がくるって聞いてて…写真とれるかなってカメラで見上げてたら、あの人がいきなり…」
そう、最近ニュースで流星群が、と報道されていて
俺たちはそれを利用することにしたのだ
地面に叩きつけられたカメラに手を伸ばそうとしたとき
タカハシが
「警察くるまで触るなよ!」
と、大声で言いはなった
その言葉に取り上げてあげようとしてくれたおばちゃんもビクッと触るのをやめる
そしてたっぷり時間が過ぎたように感じ始めたころ、遠くからパトカーのサイレンが聞こえてきた…
駆けつけた警察に俺は泣きながら嘘をついた
話題の流星群を見ようと1人でいたら
お前だったのか、と意味不明なことを言われいきなり蹴られた
その場面に気づいたたまたま同じ理由で公園にきていたクラスメイトが叫んで助けてくれた
カメラを壊されそうになった
等など
警察はまだ小学四年生を蹴り飛ばした事実を真剣に受けとめた
ニシジマを追いかけていたムトウとアベが合流し
「蹴った奴の家を確認した」と証言し、警察は追いかけたことを注意しつつニシジマの家まで行った
その間、俺は警察に連れられて自宅に帰り、大慌ての両親に心配されまくり、1人で行かせたことを謝られた
もちろん、1人で行きたいと言ったのは俺だったから多少の罪悪感で内心すまなく思ってはいた
取り調べは続いていたようだが、俺は小学生だからそのあとは写真だけ撮られた
腹蹴りは思いの外強い力だったから、しっかりと痣が残っている
その跡をいろんな角度で何枚も撮られ、父親のカメラは証拠品として預かられた
指紋を取るらしい
俺は次の日警察署に行き、両親とともに指紋を取られた
ここからはトントン拍子でうまくいった
ニシジマは俺に脅迫された、と訴えたがそれが奴の首を締めた
脅迫の内容を聞かれ、ホームレスの親父が食って掛かってきた内容と同じなのでは?と警察は勘繰り始め…
最近の動物失踪、殺害事件の容疑者としてニシジマを取り調べ始めた
俺は脅迫などしていないと言い張り、警察も小学生が脅迫するのは非現実的だと思ったのか、それ以上追及はされなかった
叩きつけられたカメラからニシジマの指紋が出たし
結局、ウサギ小屋や獅子丸が拐われたタカハシの家からも同じ指紋が出たらしい
他の拐われた家からも…
これで、犯人はニシジマで決定したのだ
俺たちはニシジマ逮捕のニュースを話し合いながら、下校していた
地元新聞にも載ったがなにせニシジマもまだ未成年なので、詳しくはのっていない
それが悔しくはあったが、俺たちは満足していた
サイコパス野郎を嵌めてやり、獅子丸の仇を取ったタカハシは誰よりも嬉しそうだった
「警察の人が言ってたんだけど、魔法使いの爺さんはずっとあの高校生がウサギ殺しだって訴えてたんだってさ」
俺はお父さんがお母さんに話していた内容を聞いていたから、そのまま皆に伝えた
「だから警察は脅迫されたって言うニシジマをウサギ殺しの容疑者と思ったんだな…ホームレスのおっさんだけがそういうならまだしも他の奴も言うなら本当なのかもしれないから」
警察の調べでニシジマか頑なに言わなかった脅迫内容が
無造作に部屋のゴミ箱に突っ込まれていたことがわかったらしい
警察の人は巻き込まれたと思っている俺の家族には事件のあらましを話してくれたのだ
結局ニシジマは自供して、拐った動物達を虐待したあと自分ちの庭に埋めたと言ったらしい
警察が一時期やたら沢山でばってきてニシジマの家をブルーシートで囲っていたわけだ
警察の発表では沢山の動物の骨がみつかった
タカハシは獅子丸の骨を返して貰いたがったが、結局区別がつかないから合同でお経をあげてもらったらしい
タカハシは悔しそうに小さな銀のプレートを握っていた
そのプレートには、獅子丸と掘られていた
これだけは帰ってきたんだ、と半ベソをかいてタカハシは呟いていた
それから…
不思議なことに無罪で放免になったはずの魔法使いが
橋の下に帰ってくることはなかった
散々な目にあったこの町が嫌になったのかもしれない
俺たちは毎日見に行ったけど、結局会うことはなかった
そして時が流れたいま、まだ友達でいるのはタカハシだけになってしまった
ムトウとアベとは疎遠になり、今は何をしているかさえわからない
同窓会に来ることもなく、俺とタカハシは寂しく思いながらも
この時の思出話を何度となく話すのだ
最後まで見てくれた人ありがとう
かなりフィクションが混ざったけど概ね書けてよかった
本当が混ざった嘘小説と思ってくれたら嬉しいです
魔法使いはもう死んじゃったかなあ…
では、さよなら、ありがとう!
お疲れさま!
元スレ:https://talk.jp/boards/occult/1708320996
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